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【カカオロマンス】筑豊から、心に届く一粒を。歴史と想いを継ぐチョコレートの物語
株式会社カカオロマンス
梅原 英生氏 インタビュー
福岡県・筑豊の地で生まれたチョコレート専門店「カカオロマンス」。その創業は1980年、当時としては珍しい“チョコレートに特化した路面店”としてスタートを切った。立ち上げたのは、設立1953年の年商80億円 の製菓企業を率いたのち、自らの手でもう一度「本当に美味しいものを届けたい」と願ったひとりの職人経営者だった。
その意志を最も近くで見つめていたのが、今回お話をうかがう梅原英生氏。創業者の意志を継ぐ親族として、時代の変化の中で会社を守り、次なる世代へと橋を架ける大きな決断を下した人物である。
今回のインタビューでは、カカオロマンスの歩んできた歴史と地域との関係、そしてM&Aによる事業承継の背景にある“想い”について、じっくりと語っていただいた。
―創業から現在まで、カカオロマンスの歩みを教えてください。
カカオロマンスは、福岡県の筑豊エリアを拠点に、チョコレートを中心とした洋菓子製造・販売を行っている会社です。現在は、チョコレート専門店「カカオロマンス」、タルト専門店「る・せるくる」、そして総合洋菓子店「はないちもんめ」の3店舗を運営しており、それぞれ喫茶と工房を併設しています。製造・販売・飲食、この三位一体の運営体制は、私たちのこだわりでもあり、地域のお客様に出来立ての美味しさを届けられる強みでもあります。
創業は1980年。当時の福岡市浄水通り、今でこそ高級住宅街として知られていますが、その路地裏の一角に、小さなチョコレート専門店「カカオロマンス」を開業しました。創業者は、私の父です。彼はそれ以前、年商80億円を誇る和洋菓子メーカーの代表を務めておりましたが、その職を退いたのち、「自分の手で、想いのこもった菓子づくりをもう一度やりたい」と、ゼロから再スタートしたのです。
1988年に法人化し、時代の波を受けながらも、父の「ものづくり」に対する真摯な姿勢が、徐々に取引先やお客様に評価され、やがて店舗や工場の規模を拡大していくことになりました。私もその背中を見て育ち、父の想いを継ぐ形で会社を牽引するようになったのです。
―チョコレートづくりへのこだわりをお聞かせください。
弊社は洋菓子全般を手がけていますが、やはりチョコレートは特別です。現在、工場には品目に応じた設備をそろえていますが、なかでもチョコレートの製造ラインは、他社には類を見ないレベルで整備されていると自負しています。カカオの温度管理、湿度、空気との触れ方まで…非常に繊細な技術が求められる分野ですが、だからこそ奥深く、やりがいのある世界です。
父の代から大切にしてきた「菓子は、人の記憶に残る贈り物である」という想い。その信念は、今でも私たちの商品ひとつひとつに息づいていると思っています。
― 会社の成長を支えてきた地域「筑豊」との関わりについて教えてください。
筑豊・飯塚という地域には、実は洋菓子文化の歴史が深く根付いています。かつて「長崎街道」が通っていたこの地には、江戸時代より砂糖や南蛮菓子の製法が伝わってきており、「シュガーロード」とも称されるほどです。
また、昭和の時代には炭鉱産業で地域全体が栄え、当時の人々にとって甘いお菓子はまさに“ごちそう”でした。そうした文化の中で、多くの菓子企業が生まれ、全国へ羽ばたいていったのです。弊社のルーツでもある前職の「S社」もその一つですし、私たちカカオロマンスも、その流れを引き継いで育ってきた存在だと思っています。
(写真)プラリネチョコレート詰め合わせ 30個入り
―事業の転換期についてお話いただけますか?
2000年代初頭、私たちは天神イムズやキャナルシティなどにも出店し、最大6店舗まで拡大しました。また、OEM生産も順調で、工場は常に高稼働状態でした。しかし時代が移り変わる中で、徐々に変化の波が押し寄せてきました。
製品開発のスピードや、消費者ニーズへの対応力。そこに対する準備が、正直言って私たちには足りていなかったのです。そして長年会社を支えてくれたスタッフたちも、退職や高齢化により徐々に現場を離れ、マネジメント層が不足するという課題にも直面しました。
会社を立ち上げ、拡大させることよりも、「維持し、育てる」ことの難しさを実感しました。
―M&Aに踏み切った背景と、その決断について教えてください。
私自身、過去にグループ会社のM&A業務を担当した経験があったため、事業承継の選択肢としてM&Aは自然な流れでした。むしろ、これまで会社を支えてきてくれた従業員や、お客様、取引先に対して誠実であるためにも、「次の世代に繋ぐ」という覚悟が必要だったのだと思います。
M&A仲介会社からいくつかの企業をご紹介いただいた中で、最終的にご縁をいただいたのがテイクオーバーグループさんでした。若さ、そして判断と行動の速さ。これは、今の私たちにはないものでした。そして何より、「この会社をもっと良くしていきたい」と心から思ってくださっていることが伝わってきたのです。
―現在、会社やスタッフにはどのような変化が起きていますか?
大きな変化が、すでに始まっています。まず、スタッフたちの意識が明らかに変わりました。これまでのように「誰かがなんとかしてくれる」ではなく、「自分が関わる」という当事者意識が芽生えてきたのです。
正直、これまでの環境は“ユルさ”がありました。それが悪いとは言いません。けれど、時代に取り残されないためには、挑戦と責任をセットで持つ覚悟が必要です。短期間でここまで変わってきたことに、私自身、少し感動すらしています。
―最後に、これからのカカオロマンスに対する期待をお聞かせください。
私は経営の第一線からは退きますが、資産管理会社として近くで見守っていくつもりです。これまで育ててきた会社、ブランド、スタッフたちが、これからさらに成長していく姿を、心から応援したいと思っています。
チョコレートは、ただの「お菓子」ではありません。人の記憶に残り、誰かの心を温かくする“贈り物”です。だからこそ、私たちはこれからも変わらず「本物」をつくり続けてほしい。そのための新たな一歩が、今、ここから始まっています。
変化の中で、あえてその一歩を踏み出す決断をした梅原氏。甘い菓子に込められた想いは、ただの味覚だけでなく、人の心に残る“記憶”として受け継がれていく。
かつて、創業者が菓子づくりにかけた情熱。それを背負い、走り続けた次の世代が、今、新たな担い手へとバトンを渡す。変わらぬのは、“カカオロマンス”という名のもとに、誰かの暮らしにそっと寄り添う菓子を届けたいという、静かな決意だ。
■会社概要
会社名 株式会社カカオロマンス
創業 1980年
所在地 福岡県(筑豊エリア 飯塚市ほか)
事業内容 チョコレート・洋菓子の製造・販売、喫茶運営
主な店舗
– チョコレート専門店「カカオロマンス」
– タルト専門店「る・せるくる」
– 総合洋菓子店「はないちもんめ」
– 洋菓子・チョコレートの製造工場(自社保有)
■株式会社テイクオーバーについて
「価値ある事業をなくさない」をコンセプトに、日本全国における中小企業の事業承継問題に真正面から取り組む、承継支援・経営再生会社です。後継者不在や経営の停滞により存続が危ぶまれる企業を対象に、実質的な承継・再生の実行者として介入し、企業価値の維持・向上、ひいては地域経済の活性化に資することを目的としています。承継後は再生チームが経営を担う当事者として、グループの知見や人材・資本力を用いて、企業が本来持つ潜在的な価値を引き出し、持続的な成長へと導きます。価値ある企業を一つでも多く、後世に繋いでいく。そのひとつの想いで、今後も活動を続けてまいります。
〈事業内容〉
飲食、食品製造、ペット、アパレル事業等
中小企業の株式の取得による事業承継
経営体制の再編・組織強化支援
営業・販売戦略、バックオフィスの構造改革
グループ間シナジーの創出による成長加速