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【ニック】ともに未来を描ける相談役の存在が、必要だと感じた
株式会社ニック 代表取締役
西垣陽介氏インタビュー
明治の終わりに産声をあげた印刷会社が、時代の波に揉まれながらも、進化を続けている。
兵庫県朝来市を拠点に、特殊紙や特殊加工という独自の強みを武器に、全国規模で事業を展開する株式会社ニック。
このたび同社は、テイクオーバーグループとの提携により、新たなステージに歩を進めようとしている。
今回は、代表取締役 西垣陽介氏に、地域への思い、事業の軌跡、そして未来への決断について、じっくりと話を伺った。
― まずは、貴社が拠点を置く「朝来市」という地域の魅力についてお聞かせいただけますか。
朝来市は、兵庫県の中央に位置し、山陰と京阪神を結ぶ交通の要所にあります。
古代には茶すり山古墳といった歴史遺産が築かれ、中世から近世にかけては竹田城跡や生野銀山が栄えました。これらの遺産は、今も人々の暮らしに静かに寄り添い、文化の土壌を育んでいます。また、自然も豊かで、四季折々の表情を見せる山々や渓谷、温泉、公園、キャンプ場などが点在しています。静けさと力強さを併せ持つこの地は、地域の暮らしと文化に、深い奥行きを与えていると感じています。
― 株式会社ニック様は、100年以上の歴史を持つ印刷会社と伺いました。改めて、事業内容をご紹介いただけますか。
私たち株式会社ニックは、パンフレットやカタログ、チラシといった商業印刷物をはじめ、出版物や特殊印刷に至るまで、紙を通じて「伝える力」を追求してきました。
一般紙から特殊紙まで幅広く対応し、箔押し、型抜き、シルク印刷といった特殊加工も得意としております。さらには、企画・デザイン・印刷・製本・アッセンブリに至るまで、一貫体制を整えており、お客様の思いやブランドの世界観を、形にするお手伝いをしています。
― 地元に根ざした印刷所として出発され、現在は全国のブランドを顧客に持たれるまでに成長されています。その軌跡を、少し詳しく教えていただけますか。
当社は1910年(明治43年)、朝来市生野町にて創業いたしました。創業当初は活版印刷を中心に、町の広報誌や書籍を手がけておりましたが、「捨てられない印刷物をつくる」という想いは、今も私たちのものづくりの根底に息づいています。1985年には東京営業所を開設し、地元から全国へと販路を拡大しました。1988年には、近畿地方で初となるテレホンカード印刷にも着手するなど、常に時代の先を見据えた挑戦を重ねてまいりました。
1997年には、当時まだ普及していなかった大型カラーオフセット印刷機を導入し、本格的にカラー印刷市場に参入。私たちは、時代の変化にただ順応するのではなく、自ら変化をつくり出す企業でありたいと考えてきました。
(写真:ホログラムPP加工を施したトレーディングカード)
― 特殊紙や加工に強みを持つようになったのは、どのような転機があったのでしょうか。
大きなきっかけとなったのは、やはり東京営業所の設立でした。
それまで地域密着型だった当社が、都心部のアパレルブランドやクリエイティブ企業と取引するようになる中で、「印刷物そのものにブランディング力を持たせたい」「手に取った瞬間に、企業の想いが伝わるようなものにしたい」といった要望をいただく機会が増えました。そうした中で、箔押し、型抜き、シルク印刷など、加工そのものが“企業の姿勢”を語るような印刷物のニーズに応えることで、現在の当社の強みが形成されていきました。
― こうして順調に成長される中で、M&Aを検討された背景には、どのような思いがあったのでしょうか。
目の前の業務に追われながら、ふと10年、20年先の会社の姿を思い描こうとしたとき、はたと手が止まってしまったんです。印刷業界は、少子高齢化、デジタル化、サプライチェーンの変化など、あらゆる方向から風当たりが強まっています。そうした中で、社内外のリソースが限られていく今、自社単独で未来を切り開いていくには限界があると感じ始めていました。だからこそ、経営の舵取りを共に考え、悩みを共有できるパートナーが必要だと考えました。M&Aはそのための“選択肢”というより、“自然な流れ”だったように思います。
(写真:銀箔押し加工が施された企業DM)
― その中でテイクオーバーグループを選ばれた理由は、どこにあったのでしょうか。
第一に、山崎社長の人柄に惹かれました。経営者同士の付き合いで最も重要なのは、やはり「信頼」だと思っています。その点で、私たちの想いや歩幅を丁寧にくみ取り、寄り添ってくれた姿勢に、この人となら未来を考えられると感じました。また、グループとしての多様性も魅力でした。異業種間でのシナジーが生まれれば、印刷業という枠を超えた価値創出が可能になると確信しています。特に、地方に根差す中小企業にとって、持続可能な経営を実現するには、M&Aという手段をポジティブに活用していくことが今後さらに重要になるはずです。
― 最後に、今後の展望をお聞かせください。
これからは、グループの中での連携やプロジェクトを積極的に進めていきたいと思っています。技術的な相乗効果だけでなく、価値観や理念の共有による「人と人との結びつき」が、私たちの未来をつくると信じています。紙という素材の可能性は、まだまだ尽きていません。触れて感じる、残して伝える。そんな印刷物の力を、次の世代にも伝えていけるよう、挑戦を続けてまいります。
西垣氏の語り口は穏やかでありながら、その一言一言には、100年企業を預かる覚悟と、未来を切り拓こうとする強い意志が滲んでいた。変化の時代にあっても、自らの軸をぶらさずに挑み続ける株式会社ニックの歩みに、今後も注目が集まる。
■会社概要
会社概要
商号:株式会社ニック / NIC Co.,Ltd.
創業:1910年
設立:1984年10月
代表取締役:西垣 陽介
本社工場:兵庫県朝来市生野町真弓83-1
東京営業所:東京都中央区日本橋大伝馬町13-7 日本橋大富ビル2F
事業内容:企画、デザイン、編集、商業印刷、帳票印刷、出版印刷、特殊加工、写真集制作、WEB制作、AR制作、アプリ制作、宛名印字、発送代行業務