事業継承した企業の声

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【ツルヤ味噌】氷見の味噌文化を継承する企業の「組織の見える化」

ツルヤ味噌 株式会社
釣谷雄一氏インタビュー

富山県氷見市―寒ブリの名産地として知られるこの港町に、1910年の創業以来、地域の食卓とともに歩んできた味噌メーカーがある。伝統を守りながら変革に挑む現在、企業としてどのような意思決定をし、どんな未来を描いているのか。今回は現場責任者の釣谷氏に、創業から現在に至るまでの歩みやM&Aに至る背景、そしてグループとしてのこれからについて話を伺った。


―まず、御社の事業概要と地域性についてお聞かせください。

当社は1910年に創業し、味噌・醤油の製造販売を主軸に、鍋の素やドレッシングなどの加工品も展開しています。本社は富山県氷見市にあり、北陸三県のスーパーマーケットを中心に販路を構築してきました。製造には蒸米機、製麹機、大豆蒸煮缶などの設備を活用しており、中小規模の味噌メーカーとしては比較的生産性の高い体制を構築しています。

拠点である氷見市は、「ひみ寒ブリ」に代表される漁業と味噌文化が根付いた地域。魚との相性を重視した辛口の味噌や、刺身に合う甘口醤油など、地域性を反映した商品開発が強みです。また、「かぶす汁」など、地元の食文化と連動した用途提案も行っており、味噌の価値を地域と共に育ててきました。

―創業の背景とこれまでの歩みはどのようなものでしたか?

創業者・釣谷安次郎が氷見に移り住み、米の卸売業を営む中で、米を原料とする味噌の製造を開始したのが始まりです。明治時代は味噌が高級品とされ、高粗利での販売が可能な時代背景もあり、味噌醤油事業は順調に拡大しました。昭和50年には、最新鋭の設備を備えた工場を新築・移転し、当時の人口増加を背景に売上を大きく伸ばしました。

しかし近年の人口減少、スーパーマーケットの集約化や倒産、コロナ禍、ウクライナ侵攻、原料高騰など複合的な要因によって、事業環境は大きく変化しました。主要販路の縮小により売上は減少、値上げによる顧客離脱もあり、会社として変化が求められる局面が続いています。

(写真)富山県では馴染みのある味噌加工品を多く製造している

―M&Aを選択された背景と、譲渡後の変化についてお聞かせください。

当社は、販路のスーパーマーケット依存からの脱却を図る中で、M&Aという選択肢を検討し始めました。ちょうどコロナ禍の頃から構想し、山田&パートナーズ様のご紹介でテイクオーバーグループとご縁をいただきました。

他にも候補企業はありましたが、雇用維持・既存取引の継続を重視する姿勢と、グループ内に食品関連企業が多く、事業シナジーが見込める点が決め手となりました。トップ面談の印象も良く、明快で信頼感のある方でした。

―M&A後、厳しい状況をどう乗り越えようとされていますか?

まず取り組んだのは、財務状況と構造課題の可視化です。マネージャーの協力を得て、改善シミュレーションを作成し、収益構造の分析と目標の数値化を進めました。同時にEC強化に取り組み、立ち上げと商品ページ改善をグループ会社と連携して実施しました。

現時点では、未だ原材料費高騰の影響を強く受けており、思考錯誤が必要な状態が続いていますが、社内では幹部メンバーとの対話を重ね今の課題を共有しながら、具体的なアクションに落とし込んでいます。


(写真)グループ会社の六左衛門ではツルヤ味噌を使用し、人気のもつ煮をリニューアルした

―今後の展望と、テイクオーバーグループへの期待を教えてください。

まずは、事業基盤を安定させることが最優先です。そのうえで、グループ各社との連携によって新しい商品展開や販路開拓を進めたいと考えています。特に味噌や醤油の消費が今後さらに落ち込むことが予想される中、付加価値を持った商品開発、BtoC販路の拡大、他社の知見を活かした新規プロジェクトなどを積極的に仕掛けていく必要があると感じています。

営業には自信があるので、グループ企業の多様な商材を自ら提案・販売していくような動きも視野に入れています。また、業務範囲としても経理や労務などを含めた役割が広がり、従業員への権限移譲やチームによる運営体制の再構築にも着手しています。

大手の寡占による「地域の味の画一化」を防ぐという意味でも、ツルヤ味噌が持つ文化的価値を次世代につないでいければと考えています。


100年以上にわたり、氷見の風土とともに歩んできたツルヤ味噌。伝統に甘んじることなく、数字に基づいた経営改革と、グループの力を活かした新たな挑戦に取り組む姿勢は、地方食品メーカーの可能性を力強く示している。

人口減少や食の多様化といった業界全体の課題を見据えながらも、「地域の味を未来につなぐ」という明確なビジョンのもと、一歩ずつ着実に進化を遂げているツルヤ味噌。その取り組みは、同じような課題を抱える地方企業にとっても、多くの示唆を与えてくれるだろう。

老舗であることに甘えず、次の100年に向けて変革を続けるツルヤ味噌のこれからに、ますます注目が集まる。


■ツルヤ味噌株式会社

社名 ツルヤ味噌株式会社
設立 昭和55年3月(明治43年創業)
資本金 1,000万円
本社・工場 〒935-0031 富山県氷見市柳田字布尾山24
TEL:0766-91-0145/FAX:0766-91-2378
営業内容 味噌、醤油、調味食品等の製造販売
主取引先 三菱食品株式会社、株式会社日本アクセス、加藤産業株式会社、アルビス株式会社、カナカン株式会社
取引銀行 北陸銀行、富山銀行、北国銀行、三井住友銀行 他

■株式会社テイクオーバーについて

「価値ある事業をなくさない」をコンセプトに、日本全国における中小企業の事業承継問題に真正面から取り組む、承継支援・経営再生会社です。後継者不在や経営の停滞により存続が危ぶまれる企業を対象に、実質的な承継・再生の実行者として介入し、企業価値の維持・向上、ひいては地域経済の活性化に資することを目的としています。承継後は再生チームが経営を担う当事者として、グループの知見や人材・資本力を用いて、企業が本来持つ潜在的な価値を引き出し、持続的な成長へと導きます。価値ある企業を一つでも多く、後世に繋いでいく。そのひとつの想いで、今後も活動を続けてまいります。

〈事業内容〉
飲食、食品製造、ペット、アパレル事業等
中小企業の株式の取得による事業承継
経営体制の再編・組織強化支援
営業・販売戦略、バックオフィスの構造改革
グループ間シナジーの創出による成長加速